COLUMN COLLECTION | 連載コラム

経営コンサルタントの現場報告

物流専門のコンサルティングを手がける㈱シーエムオーの代表取締役・川﨑依邦氏が、
実際に体験した労務問題を報告。取り組み内容などを詳しく紹介します。

昭和24年、広島市で生まれる。早稲田大学卒業後、民間会社で人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。㈱日本経営から昭和63年に独立開業、平成2年法人設立。「物流経営研究会」を組織。物流業界でオンリーワンの経営コンサルタント会社を目指す。
シーエムオー 川﨑依邦 代表取締役
お問い合わせは http://www.cmo-co.com

経営再生物語(170)情と非情のバランスシート〈事例A〉

〈信頼の含み益〉

 もう一つのエピソードがある。A社の荷主から、夕方ギリギリになってオーダーが来た。配車係は「車がありません」と答えた。この荷主は古くからの付き合いである。それだけにA社長自らハンドルを握って、この荷主の荷物を運んだのだ。

 A社長は配車係の「ノー」の答えを聞いた。「車がありませんと言って、断るな。どんなことがあってもやるのが、わたしの方針だ。わたしを使え。わたしが行く」。A社長は本当に、自らハンドルを握って仕事をこなした。

 運賃は知れている。A社長の1時間当たりの賃金を考えると、割に合わない。確かにこの日は、超繁忙であった。配車係としても、いろいろ手を尽くしての「ノー」の返事である。

 それでもA社長は許さない。創業のころからの付き合いで、ここまで会社を発展させてくれた荷主の一つだ。どんなことがあっても、やってでもやり抜く。A社長は配車係に宣告する。

 「お前はわたしの方針に合わん。あすから運転手に戻れ」

 常日ごろから「金のないのは首のないのと同じだ」と言い続けているA社長。このエピソードは何を物語るか。

 通常の商取引では、このオーダーは割りが合わない。配車係にもそれなりに苦労した。100台の自社車両を有し、それとほぼ同台数の傭車を動かすA社のトップ自らハンドルを握る。一見すると、むちゃくちゃ。しかも、配車係は運転手へと異動である。こうまでしてやり抜くのは、目に見えないバランスシートのためである。荷主との信頼、信用の含み益を大切にしようとしているわけだ。

 A社長いわく。「信用、信頼は金で買えるか。金で買えていると思っているのは幻や。幻はいつしか消えていく。わたしが死んでも、残るのはこの信用や。信用は残る。荷主の心に残る。運転手に戻した配車係も、きっと分かってくれる。おやじの本当の気持ちというものが、分かってくれる。運送屋の心意気というものが、必ず分かってくれる」

2017年9月22日 15:23

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