COLUMN COLLECTION | 連載コラム

経営コンサルタントの現場報告

物流専門のコンサルティングを手がける㈱シーエムオーの代表取締役・川﨑依邦氏が、
実際に体験した労務問題を報告。取り組み内容などを詳しく紹介します。

昭和24年、広島市で生まれる。早稲田大学卒業後、民間会社で人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。㈱日本経営から昭和63年に独立開業、平成2年法人設立。「物流経営研究会」を組織。物流業界でオンリーワンの経営コンサルタント会社を目指す。
シーエムオー 川﨑依邦 代表取締役
お問い合わせは http://www.cmo-co.com

経営再生物語(178)ゆでガエルになるな〈事例A〉

 〈頼れぬ三代目〉

 A社は創業50年の老舗の物流会社、社長は3代目である。A社は経営のピンチに見舞われている。

 A社の荷主が業績悪化に直面している。A社の荷主は小売り業である。平成不況の大波の中で苦闘している。バブル期に積極的に店舗を拡大し、借金を増してきた。この荷主のトップは叩きあげの経営者で、超強気の人である。「行け行け」タイプである。A社は、この荷主のトップにくい込み、成長、発展してきた。くい込み方の一例として、トップの自宅の造園をしてあげた。いわゆる造園代は請求しない。フトコロ深くくい込んでいる。

 ところが、このワンマン社長が急死する。重い借金が一気に荷主の肩にのしかかってくる。ワンマンの不在で迷走する。店舗の統・廃合を進めていく。当然、物流量は減っていく。A社の売り上げも低迷する。A社の売り上げに占める、この荷主の比率は80%である。ピークの売り上げの70%になっている。わずか3年ばかりの間に坂道を転げ落ちる。

 A社の3代目は、ノイローゼになってしまった。会社に出なくなり、家に閉じこもってしまった。A社の3代目(A氏と呼ぶ)は、大学を卒業して、10年ばかりはメイン荷主の会社に就職した。コネ入社で、武者修業である。10年経ってA社に入り、経営企画室長として10年過した。経営企画室長の役割は2代目社長の秘書である。無難な10年を過ごした。2代目社長が完全に引退して、3年前に現在の地位(社長)に就いた。就任してから毎年売り上げが下がり続ける。45歳、A氏の苦悩の始まりである。

 A氏は自分1人では決断しない性格である。会議を開いても最終決断しない。大勢に従うのである。一例を挙げると、昇給会議がある。昇給会議とは、社員の給料を決める会議である。A氏は「こうしろ」とは言わない。「社長、これでいいですか」と問われると、A氏の意中にかなっていれば「よし」となり、そうでなければ、じっと考え込むのである。側近の幹部は、そのあたりの呼吸を熟知しているので、あうんの呼吸で進めていく。

 しかもA氏は、いやな報告には露骨に苦しむ。売り上げが落ちている。重大事故が発生している。これらの報告が耳に入るとトタンに口を開かなくなる。ムスッとしている。そして、2、3日会社に出てこない。そこで側近は、悪い報告はA氏には言わなくなった。大本営発表のみ耳に入れる。

 「どこそこの店舗間配送の物流が増えています」というような、ごくわずかないい話しかA氏の耳にはいれない。「裸の王様」である。A氏はいい大学を出ている。一流大学出身である。いくら一流大学を出ているからといっても、経営の才覚、勇気には何ら関係ない。

 それでも避けて通れないのが年1回の決算報告会である。A氏は毎年経営方針を発表する。夢のある話をするが地に足が着いていない。毎年の、年初に発表する経営方針と現実とのギャップが大きいのである。今回はついに赤字決算となってしまった。A氏はムスッとするどころか、出社を拒否してしまった。ノイローゼになってしまった。

 A氏は言葉はきれいである。いわく「夢のある物流会社を目指そう」︱︱実際は超保守である。現状の荷主との取引1本である。受け身である。メイン荷主についていくだけである。メイン荷主の業績悪化に引きずられる。この3年間はリストラしか行っていない。そのリストラも自然リストラである。自然リストラとは、新たに人を採用しないことである。採用しないことのみ。それと昇給ストップである。上げもしなければ下げもしない。

 ところがメイン荷主の業績悪化のスピードは早い。抜本改革が刻一刻と求められてくる。A氏は内心つくづくイヤになっている。「どうしてこんな会社に入ったのであろうか」「物流業はいやだ。向いていない」。A氏は、本当は音楽で身を立てたいと思っていた。大学時代はバンドをつくっていた。ところが、オヤジ(2代目)の言うがままに修業に出てしまった。自問自答する。

 「自分は本当にこの仕事がやりたかったのか」

 しかもA氏には、経営者をどうしても続けなければ、との強いこだわりもなかった。生活については、オヤジが残している不動産で食べていくことはできる。マンション経営を副業として行っている。「このままでは会社はどうにもならない」。それでもA氏は立ち向かうことはしない。投げ出すほうに傾くのである。放置・逃亡へと心が動く。それがノイローゼによる出社拒否である。A氏は超保守スタイルで、流れに任せてしまう。

 (つづく)

2017年11月24日 10:00

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